DSC0456820130920200208.gif
コチラの靴はハインリッヒディンケラッカーの靴です。オールソールに御持ち込み下さいましたが、特殊な底付けの為に機械縫いでは同じ仕上げが出来ないので、手縫いでの修理となりました。

何故機械で縫えないかと言うと、靴底を縫い付ける出し縫いの一目一目に、革ひもが絡げ合わせて縫ってあるからです。ツォップナートと言われる縫い方で、まるで三つ編みの様な表情から、日本では三つ編み縫いや弁髪縫い等と呼ばれております。そして、この革ひもは仕事が細かく、ただの革の切りっぱなしではなく、アッパーと同じ革を薄く漉き、麻ひもを包んで革ひもにしてあります。

因に私が以前お世話になったイタリアの会社では、「スターニョ製法」と言われておりました。

余談ですが靴を作る工具、工程同様、製法も呼び名はみんなそれぞれ好きな様に呼んでいる様で、日本でも海外でも初対面の職人さんや年配の職人さん、地方の職人さんと話をするとお互い通じない事が多々有ります。
DSC0456920130920200159.gif
そして、問題の靴底はこのような状態です。爪先は無くなり、真ん中には穴が開いております。
DSC0457320130920200147.gif
そして、一番下のアウトソールを剥がすとこのような状態です。ここで御解り頂けるのが、実はアウトソールは縫われていないと言う事です。

理由は幾つか考えられます。

先ず、分厚く固い靴底を縫うのは手間隙がかかると言う事です。

そしてもう一つは、手縫いの靴なので、オールソールの際にまた手で縫うのは大変なので、アウトソールのみを圧着で交換出来る様にと言う点です。

しかし、圧着のみで靴底を付けるのは剥がれてくるのではないだろうかと心配になります。特に、ぶつけやすい爪先や屈曲部(最も足幅が広い所)は剥がれ易いです。しかし、その点はしっかりと対策されており、剥がれ易い部分には装飾的に真鍮釘が手仕事で片足だけでで54本も打ち付けてあり、それがしっかりと剥がれ防止の役割も果たしております。

では、アウトソールのみ圧着で同様に釘留めで交換すれば良いのではと思われるでしょうけれども、この靴の場合爪先周りは既に無くなってしまっているので、奇麗に元の様に戻す為にミッドソールも交換する必要が有るから、出し縫いも外してのオールソールをする事にしました。
DSC0457520130920200126.gif
と言う事で、完全にばらした靴に新しいミッドソールを貼りました。元の要領ではここで出し縫いですが、ここは一手間加えて、圧着では無く、よりしっかりと靴底を付けるためにアウトソールを貼付けて全て一緒に縫い上げます。
DSC0457420130920200139.gif
先ず、出し縫いを始める前に縫い糸が必要です。実際に、出し糸を抜いてばらしてみると細い単糸が12本縒られてできておりました。しかし、極太の機械縒りの糸が容易には見つかりません。

ですので、国産の単糸を程よい太さになるだけ使い、それに縒りをかけて糸を作ります。
DSC0492520130920200117.gif
と言う事で、今回は国産の単糸5本を縒って糸を作る事にしました。
DSC0492820130920200106.gif
そして、縒った糸にチャン(松脂と密蝋を煮詰めたもの)を塗り、強度を出します。しかし、極太の糸のままでは縫えませんので、極太だけど先端は極細になる様に糸先加工を施します。これで、針を付ければやっと縫い始めることができます。
DSC0493420130920200058.gif
DSC0492920130920211650.gif
そして、出し縫いです。元の穴を拾いながら、革ひもを絡げながら、糸の表情を意識して縫って行きます。
DSC0493520130920200051.gif
そして縫い上がりです。革ひもと極太の出し糸が、良いバランスです。やはり、手軽に手に入る機械縒りの細い糸で妥協せずに、単糸を縒って太さを合わせて作って正解です。
DSC0493720130920200041.gif
縫いあがったら、出し縫いの為に起こしていた革を伏せれば縫い目の見えないヒドゥンチャネルとなりました。
靴底は縫い付けてあるので、圧着の様に剥がれる心配は有りません。それ故、元々有った真鍮釘は無しで仕上げます。
DSC0493820130920200033.gif
そして、爪先には爪先の減り防止の為に始めからトゥスチールを付ける為に溝を作ります。出し糸を切ら無い様に慎重に包丁を入れています。
この後、スチールをビス留めして、削り形を整えれば取り付け完了です。
DSC0493920130920200025.gif
そして、ヒールを積み上げ、オリジナルの同パターンで化粧釘を打ちました。
DSC0494020130920200015.gif
そして、インク入れです。オリジナルと同じ様に極太の額縁で仕上げます。
DSC0494520130920200343.gif
コバやヒール、先ほど縫った出し糸も同様に蝋インクを入れます。
DSC0494120130920200004.gif
そして、インクを入れた所を磨き上げるとこんな感じになりました。極太の額縁でぱりっと引き締まってきました。
DSC0494420130920200356.gif
そして、真っ白だった革の表面も仕上げてピカピカに。そして要所に飾りゴテを入れて靴底の完成です。
DSC0494720130920200336.gif
そして、ヒールやコバも磨き上げてピカピカに復活。
DSC0494820130920200328.gif
アッパーも仕上げて、これで本当の完成です。コバの上面の弁髪が何とも言えぬ存在感で独特の魅力が有りますね。

少し太めで色落ちの良いジーンズなんかに、センスのいいソックスを覗かせて、ギラギラに磨き上げられたこの靴を合わせる妄想を膨らませてしまいました。シャープで上品な、ドレスシューズも良いけれど、カジュアルにこんな靴も持っておきたいですね。

以上、今回の修理は¥19400也。

手縫い修理の割に安いと思われるかも知れませんが、縫いのピッチが広いので、手縫いとは言えそれほど時間のかかる作業ではないのでこの価格で修理させて頂いております。勿論ピッチが細かい靴の手縫いでのオールソールはお値段もう少しお高くなりますのでご了承を。


スポンサーサイト